聖隷クリストファー大学教授/博士(医療福祉学)/理学療法士/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員【古川和稔】静岡県浜松市



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 ■連載コラム「いきいきリーダー養成講座」

私が雑誌『相談援助&運営管理(日総研出版)』に連載していたコラムです!

@介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第1回)、
  今日から出来る「自己覚知」、平成24年2月


A介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第2回)、
   リーダーこそ介護の魅力を語ろう、平成24年5月


B介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第3回)、
  良好な人間関係をつくろう!、平成24年8月


C介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第4回)、
  研修を生かしてチームをつくろう!、平成24年11月



 
@介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第1回)、
  今日から出来る「自己覚知」、平成24年2月

 新連載、「介護現場を楽しく生きる!リーダー養成講座」のはじまりです!!

このコーナーは、私自身が経験してきたこと、学んできたこと、研究していることなどを踏まえ、読者の皆様に、「よし!今日から実践してみよう!」と思っていただけるような、分かりやすくて役に立つ内容にしていきたいと思っております。一生懸命書いていきますので、最後までお付き合いください。

さて、連載初回の今回は、福祉専門職に求められる能力として挙げられることが多い“自己覚知”について考えてみたいと思います。この“自己覚知”という言葉、一般の社会では、あまり馴染みがない言葉ですが、福祉の分野では良く使われています。簡単に言うと、「自分自身を良く知ること」ですね。これは、簡単そうで、実は相当難しいことだと思います。

 プロフィールの欄にも書いてありますが、私は、大学を2年で中退し、20歳から27歳までの8年間、プロのお笑い芸人として活動(「活躍」でないのが残念!)していました。私が芸人だった時代は、お笑いのネタを披露するテレビ番組はほとんど無く、年に数回の深夜番組を除けば、ライブハウスや地方の営業が主な仕事場でした。毎月開催されるライブでは、必ず新ネタを披露しなければならない決まりがあったので、常にネタ作りと稽古に追われていました。深夜の公園で漫才の稽古をしていると、ホームレスの方々が集まってきて、「相変わらず面白くねぇーな」なんて、ダメ出しされては傷ついたものです(笑)。とにかく、最低でも月に一本は新しいネタを作らなければならなかったので、仕事帰りのサラリーマンが集まる小さな居酒屋に行っては彼らの会話を聞き、「ふむふむ、サラリーマンはこんなことに興味をもっているのか」と考え、それをもとに、漫才やコントのネタを作ったものです。その時に圧倒的に多かった話題は、上司や同僚、部下の悪口でした(笑)。「課長は全然分かってくれない」とか、「今度入ってきた新人は、何を考えているのかサッパリ分からない」といった会話から始まり、そのうち酔っぱらってくると、「あのヤロー!」みたいに怒鳴っている人もいました。当時の私は、「何でこの人たちは、自分の事は棚に上げて、他人のせいにばっかりしているのだろう」と思い、そのような会話がとても滑稽に思えて、お笑いのネタにしていました。しかし、今振り返ると、私達芸人はもっとひどかったような気がします。私は毎月、7〜8組の若手芸人が出演するライブに出演していました。そのようなライブでは、楽屋は一つだけですので、出番を待っていると、すでに出演を終えた芸人が楽屋に戻ってきます。しっかり笑いをとってきた芸人は上機嫌で戻ってきますが、笑いをとれなかった(すべった)芸人は不機嫌そうに戻ってきます。そして、すべった芸人が必ず口にする言葉がありました。それは「今日の客はひどい!」というセリフです(笑)。これこそ、先ほどのサラリーマンの数倍上をいく身勝手さですよね。自分達のネタがどうだったかという反省ではなく、開口一番「今日の客はひどい!」ですから。これらの出来事から言えることは、サラリーマンも芸人も、自分が思うような結果を出せなかった時には、「課長が…、新人が…、今日の客は…」と、ついつい他人のせいにしてしまうということです。では、なぜ他人のせいにして、自分自身を省みないのでしょうか。それは、「他人は見えやすく、自分は見えにくい」からだと思います。周囲の人の言動は、否が応でも目に付きます。一方、自分自身の言動や考えは、普段はあまり意識しません。ましてや、自分の状態が悪い時には、どうしても「見えやすいもの」しか見えなくなってしまい、結果として、他人のせいにしてしまうのだと思います。

 ここまでは、「他人と自分」で考えましたが、これを時間に置き換えても、同じようなことが言えます。時間、すなわち、「過去と未来」で考えてみると、「過去は見えやすく、未来は見えにくい」のではないでしょうか。物事がうまくいかない時には、「これまで自分は一生懸命勉強してこなかったから、今はこんな状態なんだ」とか、「自分は○○の資格を持っていないから、認めてもらえないんだ」と、過去にばかりとらわれてしまいます。

「他人と自分」、「過去と未来」、この2つの話には、重要な共通点があります。それは、「見えやすいもの=変えられないもの」であり、「見えにくいもの=変えられるもの」ということです。課長の悪口をどんなに頑張って言っても課長は変わりませんし、客の悪口をいくら言っても、笑わない客が急に笑い出すことはありません。また、過去をどんなに悔やんでも、過ぎてしまった過去は変える事は出来ません。そう考えると、状態が悪い時こそ、「見えにくいもの=変えられるもの」に焦点を合わせる努力が必要になってくると思います。

福祉実践現場でリーダーとして活躍されている皆さんは、部下はもちろんのこと、上司や同僚、医療職や事務職などの他職種、さらには利用者やその家族など、常に他者と関わりながら仕事をしています。そこでは当然、思うようにいかないことも多々あるでしょう。その時こそ、「周りは分かってくれない」ではなくて、「自分がどうしよう」と考えてみることが大切だと思うのです。そして、「これまで○○だったから、こうなっちゃったんだ」と考えるのではなくて、「これまでの事はともかく、これからどうしようか」と考えれば、道がひらけてくると思います。なぜならば、繰り返しになりますが、いくら悩んだところで、他人と過去は変えられないからです。

 ここでお断りしておきますが、私は失敗の多い人間で、数年前までは、このような考えとは無縁の人間でした。私の数々の失敗談については、連載の中でおいおい紹介させていただきますが、とにかく、かつての私は、「他人のせい」、「過去のせい」のオンパレードでした。先ほども書きましたが、芸人時代は、ネタが受けなければお客さんのせいにしていました。芸能界を引退してからの約1年間は日雇い派遣のアルバイトをしていましたが、その時は、「大学中退の芸人崩れだからこんな暮らしなんだ」と、過去のせいにばかりしていました。また、その後、老人ホームに就職して介護職員になったのですが、介護の仕事で行き詰ると、いつも「自分はきちんと学校で学んでこなかったからダメなんだ」とか、「自分は資格がないから認めてもらえないんだ」と、ここでも過去のせいにしていたのです。こんなダメダメ人間だった私の考え方が変わったのは、「調子がいい時の自分」と「調子が悪い時の自分」の違いについて意識したのがきっかけでした。ある時、仕事の状態や自分の気持ちに波があることを、ボンヤリと考えていました。そして、調子がいい時には何を考えていて、調子が悪い時には何を考えているのかを、書き出してみたのです。そうすると、調子がいい時には、自分のことや将来のことを考えていて、調子が悪い時には、他人のことや過去のことばかり考えているということが分かったのです!

私は28歳の時に、無資格無経験で老人ホームに就職しました。働き始めてから勉強の必要性を痛感し、まずは2年間の通信課程で介護福祉について学びました。その後、デイサービスに勤務しながら、理学療法士養成校(夜間部)で4年間学びました。さらに、仕事を続けながら大学院に入学し、修士課程で2年間、博士課程で3年間の、計5年間学びました。加えて、社会福祉士の資格を取得するために、通信制の学校で2年間学びました。28歳から今まで、のべ13年間、仕事をしながらの勉強でしたので、勉強時間の確保が難しく、相当苦労をしましたが、働きながら勉強している状態というのは、まさに「自分」と「未来」を考えている状態だったのです。変えられる自分、変えられる未来に焦点を合わせている時は、苦労を苦労とも思わずに頑張ることが出来、調子が悪くなると、変えられない他人と変えられない過去に焦点を合わせていたのだということが分かり、気分がすっと楽になったのです。

 今回のテーマの“自己覚知”は、福祉専門職、とりわけリーダーには不可欠な要素です。でも、どのようにして自分自身を知れば良いのかは、非常に難しいことです。そこで私は、この連載を読んでくださっているリーダーの皆さんに、“今日から出来る自己覚知”として、「自分と未来に焦点を合わせるように意識して、仕事を進めていくこと」を提案したいのです。「他人」や「過去」といった、変えられないものばかりを見ていたのでは、不満が募るばかりで、自分自身を知ることは出来ません。変えられるもの、すなわち、「自分」と「未来」に焦点を合わせて一歩ずつ進んでいくことにより、結果として、自分自身を理解することが出来るようになると思うのです。

 私自身の経験を振り返ると、以下のようなイメージです。

1-(1)  従来の考え   は過去、   は他人)

以前に業務改善の提案をしても、上司は全く聞き入れてくれなかった。今回、新たに提案してみたいことがあるが、きっと無理だろう。上司はどうして理解してくれないんだろう

 

1-(2) 自分と未来に焦点を当てる   は未来、   は自分)

業務改善前と改善後を分かりやすく整理して、上司や同僚の前でプレゼンテーションしてみよう。そうすることにより、自分自身の考えが整理出来るし、説得力のある説明が出来るようになるかもしれない。その結果、上司は理解してくれるかもしれない

 

2-(1) 従来の考え   は過去、   は他人)

これまで勉強してこなかったから、資格がない昇進も昇給も無理だろうし、やりがいも見出せない職場だ

 

2-(2) 自分と未来に焦点を当てる   は未来、   は自分)

仕事を続けながら通信課程で勉強して、新たな国家資格に挑戦してみよう所持資格が増えたら新たな介護観をもつことが出来、仕事のやりがいにつながるかもしれない

 

 この例のように、置かれている状況が同じであっても、考え方によっては前向きに捉えることが出来ます。物事を前向きに考えるためには、意識して「自分と未来に焦点を当てること」が重要で、さらに、そのような思考をもっている自分を客観的に理解しておくことが重要です。これが、私が考える「リーダーに必要な自己覚知」なのです。

だからと言って、「全ての出来事を前向きに捉えなければならない!」という様に、完璧を求める必要はありません。例えば、60点が合格ラインの試験で、得点が70点だった場合、60点の合格ラインから見れば「プラス10点」、100点満点のところから見れば「マイナス30点」となります。

「昨日よりも少しだけ前向きな自分」、すなわち「プラス10点」の自分を客観的に見ることが出来、そこから今後を考えていけるようになれれば、きっと周囲から信頼される、魅力的なリーダーになれると思います。

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A介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座(連載第2回)、
 リーダーこそ介護の魅力を語ろう、平成24年5月


連載2回目の今回は、「リーダーこそ“魅力”を語ろう!」というテーマでお送りします。この連載の目的は「いきいきリーダーを養成すること」ですので、現在リーダーとして頑張っている方をイメージしながら進めていきたいと思います。

 さて、組織の大小に関わらず、リーダーと名のつくポジションにいる方は、周囲に様々な影響を与えています。それは、「いい影響」の場合もあれば、「悪い影響」の場合もあるでしょう。リーダーが「いい影響」を与えることが出来れば、周囲は「頑張ってもっといい仕事をしよう!」という雰囲気になり、組織全体がプラスの方向に進みますが、反対に「悪い影響」を与えていれば、仕事に対するやる気が低下して、組織全体がマイナスの方向に進んでいきます。このように、リーダーの役割はとても重要です。

 では、周囲にいい影響を与えることが出来るリーダーになるためには、何が必要なのでしょうか。まずはリーダー自身が、自分の職業に魅力を感じ、誇りをもつことが重要です。

私は20歳で大学を中退し、それから27歳までの約8年間、プロのお笑い芸人として活動しました。プロと言っても売れない無名の芸人だったので、当時はかなりの貧乏生活でした。とにかくお金がなく日々の生活に困っていたので、ありとあらゆるアルバイトを経験しました。レストランのコック、喫茶店、スキー場、建設現場など、正確な数は分かりませんが、おそらく数十種類のアルバイトを経験したと思います。その時の経験から、どんな職業にも、「いい面」と「悪い面」があるということを知りました。そして、どんな職業にも、いきいきと働いている人もいれば、文句ばかり言ってつまらなそうに働いている人もいるということも分かりました。人間の思考はわがままなもので、最初は有り難いと思ったことでも、その状態が続くと、それは「当たり前のこと」に感じるようになってしまいます。それに引き替え、不平や不満などの「イヤなこと」は、慣れるどころか、時間が経つにつれてどんどんその思いが大きくなっていくものです。人間の欲がそうさせるのかもしれませんが、本当に勝手なものです。こうなると、誰かがこれをコントロールしなければ、いつの間にか不平や不満だらけの職場になってしまいます。コントロールというのは、自分の職業の魅力を「当たり前のこと」ではなく「有り難いこと」と感じることが出来るような配慮や、不平や不満を小さくしていくような配慮です。この配慮こそが、介護現場のリーダーに求められているマネジメント能力であり、このマネジメントがうまく機能しないと、顔を合わせれば、「今日も人が足りない」、「休みが取れない」、「あの利用者はわがままで」といった、マイナスの会話ばかりの職場になってしまうのです。こうなると負の連鎖で、さらに不平不満に拍車がかかりますので要注意です。この負の連鎖を生まないためには、リーダー自身が自分の職業に魅力を感じ、それを周囲に伝えて、認識させることが重要です。

 介護現場のリーダーと業務内容について話していると、「毎月の勤務表を作るのが大変で…」という話をよく聞きます。確かに、たとえ少人数の職員で構成されるユニットであっても、休みの希望を取り入れながら日々の職員数を確保する勤務表作りは、想像以上に大変な業務です。リーダーにとって、勤務表作りに代表されるような管理的な仕事が重要であることは事実ですが、これは介護現場のリーダーに求められるマネジメントの一部でしかありません。少し乱暴な言い方かもしれませんが、私は、勤務表作りよりも優先順位の高い仕事があると考えています。それは、リーダー自身が仕事の魅力を発信して、スタッフの職場定着を図ることです。私はここ数年、介護職員の離職問題をテーマに研究を続けていますが、離職者の多くは「仕事のやりがいのなさ」を離職理由として挙げています。魅力のない職場で働いていれば、やりがいを見出せないのも当然です。だからこそ、「リーダーからの魅力発信」が重要になってきます。なぜならば、職員の絶対数が不足してしまえば、勤務表作りどころの問題ではなくなってしまうからです。スタッフの不平や不満を小さくし、自分の職業の魅力を感じることが出来るような配慮こそが、介護現場のリーダーに求められるマネジメント能力だと言った理由は、こういうことだったのです。

仕事の魅力を発信するためには、まずはリーダー自身がその魅力を認識することが大切です。では、リーダー自身が自分の職業の魅力を認識するためには、何が必要でしょうか。その第一歩は、職業の特性を知ることです。

ここで改めて、介護の仕事の特性について考えてみましょう。ここでは、私自身の経験に基づいて、「お笑い芸人」と「介護」の2つの職業を対比させて考えてみたいと思います。読者の皆様は「お笑い芸人」という職業に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。私は、お笑い芸人の仕事は、常に一方向の仕事のような気がしています。お客さんの気持ちや考えは二の次で、とにかく自分達が作ったネタがどこまで通用するか押しまくるイメージです。お客さんの反応が薄ければ、「どうしてこのネタは受けないのだろう?」、「今日のお客さんはどんなネタを求めているのだろう?」などと悩むのではなく、笑いが起こるまで押しまくる強引さが求められる仕事であり、圧倒的なパワーがなければプロとして通用しない、一方向の世界です。つまり、「お客さんのニーズに合わせる」ではなく、「お客さんのニーズを超越したものを提供する」ことが、お笑い芸人の仕事の特性であり、実際に売れている一流の芸人は、一方向の圧倒的なパワーをもっています。これは、プロスポーツ選手も同様です。観客が期待するレベルのパフォーマンスでは、一流とは言えません。一流選手とは、観客が想像もつかなかったようなプレーを見せることが出来る、圧倒的な技術をもった、ほんの一握りの選手を指しているのです。

 翻って「介護の仕事」は、一方向ではどうにもならない仕事です。なかには、「お風呂に入りたくない」と言っている利用者を無理やりお風呂に入れてしまうような、一方向で押しまくっている介護職員もいますが、それでは専門職としては失格です。介護場面でいうならば、「目の前にいる利用者の幸せを阻害している要因」を発見し、それを解決すべく、利用者と支援者が協力していく過程が重要です。つまり、目の前にいる利用者のニーズ(解決すべき課題)を把握し、利用者と協力しながら、そのニーズを解決していくことが求められます。決して、「ニーズを超越したサービス」などは必要とされていません。「利用者と介護者が、双方向で協力して作り上げていく仕事」というのが、介護の仕事の第一の特性だと思います。

 次に、サービス業としての側面から、介護の仕事の特性を考えてみたいと思います。介護の世界では、利用者全員に均等均一なサービスを提供することが重要でしょうか?もちろん、そんな訳はありません。利用者の意向や置かれた状況によって、それぞれ必要とする支援は違って当然ですし、専門職であればその時々の状況に応じて支援の内容を変えていかなければなりません。ですから、サービスの提供に費やす時間を「1回5分以内」などと一律に設定することはあり得ませんし、やってはならないことです。つまり、「短時間で何人入浴させることが出来るか」とか、「オムツ交換をいかに早く終わらせるか」という部分に仕事の魅力を見出そうとしても、所詮無理な話なのです。なぜならば、それは介護の仕事の本質ではないからです。ハンバーガーショップにはハンバーガーを食べたい人が来ますし、ガソリンスタンドには、ガソリンを入れたい人が来ます。でも、介護現場の利用者は、職業的背景も、趣味も、価値観も様々で、当然、求めているサービスも様々です。利用者のニーズは一人ひとり違う上に、状況によって刻々と変化するものです。ここが他のサービス業と違う点です。すなわち、「個々の利用者が抱えているニーズの大きさや重みは異なり、それぞれに応じて適切なサービスを提供する仕事」というのが、介護の仕事の第二の特性です。

介護の仕事の特性

@利用者と介護者が、双方向で協力して作り上げていく仕事

Aニーズに応じて、均等均一ではなく、状況に応じた適切なサービスを提供する仕事

 
 私がそんな介護の仕事の特徴を実感した経験をお伝えしたいと思います。かつて私がデイサービスに勤務していた時のことです。

そのデイサービスは、立派な設備と個性的な職員がいたこともあり、評判の良い事業所でした。例えば、陶芸の窯があり、陶芸を専門に学んだ経験のある職員が中心になって陶芸活動を行ったり、お米や野菜作りなどの、本格的な園芸活動なども行っていました。そこに、山田さん(仮名)という男性の新規利用者がやってきました。山田さんは70歳台と比較的若く、ADLはほぼ自立している方でした。陶芸、園芸、囲碁、将棋、麻雀、体操、ゲーム、パソコンなど、様々な活動にお誘いしていたのですが一切参加されず、「私は結構です」と言って、いつも黙って見ているだけでした。そして、徐々にお休みされることも多くなってきました。そんなある日、送迎のバスの中で、私が何気なく学生時代のことを聞いてみると、なんと山田さんは東大卒で、一流企業に勤めていたエリートサラリーマンだったということが分かりました。働き盛りの頃は海外の責任者としてバリバリに働いていたとのことで、これまでに見せたことのない生き生きとした表情で、実に楽しそうにサラリーマン時代のことをお話ししてくれました。それ以降、山田さんには、無理に活動への参加を促さず、過去の話を沢山話していただくような支援を行うようにしました。その結果、週2回のご利用でしたが、休まれることもなく、毎回来ていただけるようになりました。

 特に難しいことをした訳ではありませんが、山田さんのニーズに応じた適切なサービスを提供したことによって、毎回楽しそうに利用していただけることになった例だと思います。私はこの経験を通して、介護の仕事の魅力に改めて気付きました。

この例のように、介護の仕事の魅力は、利用者との関わりの中から生まれてくるものです。この連載を読んでくださっているリーダーの皆さんも、私以上に色々な経験をもっているはずです。リーダーは、自分自身が利用者と関わりながら実感した仕事の魅力を、周囲の職員にも経験をしてもらえるような配慮をすることが重要です。

 リーダーの皆さん、一度原点に返って仕事をしてみませんか。これまでの経験の中で介護の仕事の魅力を感じた場面を思い出し、そのような関わりを求めて日々の仕事に取り組むことが、実はリーダーとしてのマネジメントの第一歩かもしれません。リーダーがいきいきと働いている姿を見せることによって、自然と周囲にも仕事の魅力が伝わり、結果的に周囲の介護職員もいきいきと働く素晴らしい職場が出来るでしょう。

 すぐに実践可能な具体例として、ここでは、以下の2点を提案します。

@ 毎日必ず1回はスタッフを褒める。

 誰でも経験したことがあると思いますが、褒められれば気分が良くなります。そうであれば、スタッフに対する「おはようございます」や「お疲れ様でした」といったいつもの挨拶に、「褒める」という要素を付け加えてみてはいかがでしょうか。小さなことでも良いのです。「今日の配膳時の声掛けはとても良かったですよ」とか、「利用者の○○さんと話している時の表情はとても良かったですよ」という内容で良いのです。
 介護の仕事の魅力は、利用者との関わりの中で生まれてくるものですから、そこに焦点をあてて、どんな小さなことでも良いので褒めてみましょう。


A エピソードノートを作る。

 このノートは、あくまで「個人のメモ」であり、誰かと共有するものではありません。日々利用者と関わる中で、手ごたえを感じたことや、失敗したことなどを、メモ程度に記しておきます。忙しい毎日ゆえに、利用者との関わりの中で生じる様々な出来事(エピソード)も、どんどん忘れていってしまいがちですが、個人的に記録しておき、それを時々読み返すことで、どんな時に仕事の魅力を感じたのか、どんな時に辛いと思ったのかを振り返ることが出来ます。
 周囲の職員に対して、仕事の魅力に気付くための具体的なアドバイスをする時に大変役立ちます。

 自分の職業に魅力を感じ、誇りをもつことが、輝いてみえるリーダーへの第一歩です。リーダーの皆さん、今こそ介護現場の魅力を語り、魅力的な介護福祉実践現場を創造していきましょう。

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B介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座(連載第3回)、
 良好な人間関係をつくろう!、平成24年8月


 連載3回目の今回は、「良好な人間関係を作ろう!」というテーマでお送りします。介護福祉実践現場で考えられる人間関係と言えば、利用者、利用者の家族、同僚、部下、上司、他職種、ボランティアなど、様々な対象者との人間関係が思い浮かびます。しかも、それぞれは一人ずつ存在する訳ではありませんので、単純なマニュアルのようなものでは対応不可能であることは、容易に察しがつきます。誰にでも得意なことと不得意なことがあり、他者との関わりが得意だと思っている人もいれば、ちょっと苦手と思っている人もいるでしょう。しかし、介護現場のリーダーの場合、「他者との関わりが苦手」では、かなり仕事の幅を狭めてしまいます。そこで今回は、介護現場において、なぜ良好な人間関係の構築が大切なのか、そして、良好な人間関係を作るためにはどんなことに気を付ければ良いのかについて考えていきたいと思います。

 はじめに、職場の人間関係と離職の問題について解説しておきたいと思います。介護職員の離職問題については、多くの研究者や研究機関が調査を行っておりますが、その大半は、質問紙を用いてのアンケート調査です。アンケート調査の場合、大人数を対象にした規模の大きな調査が出来るというメリットがあります。その一方で、アンケートで離職理由を調べる場合、多くは「現在も介護職員として働いている人」を対象に、「直前の職場を辞めた理由は?」といった調査になってしまい、「完全に介護の世界から離れてしまった人」は、対象にしにくいというデメリットがあります。私は、先行研究を分析しながら、「本当に介護の仕事がいやになって離職した人の場合、離職後は働いていないか、介護以外の職業に就いている可能性が高いのではないか」と考えました。そこで、数年前になりますが、入職後3年以内の離職を「早期離職」と定義して、実際に早期離職を経験した介護職員一人ひとりに聞き取り調査を行いました1)。聞き取り調査に協力してくださった15人のうち11人は、調査の時点で、無職か介護以外の職業に転職していた人でした。

マスコミ報道等では、介護職員の離職理由と言えば真っ先に「賃金の低さ」が取り上げられることが多いのですが、当事者たちの話しを丁寧に聴いていくと、実はそうではないという事が分かりました。賃金の問題が全く語られていなかった訳ではありませんが、その何倍も、何十倍も、他の理由について語られていたのです。何も、語られた時間の長短がどうこうと言うつもりはありませんが、介護職員の早期離職には、賃金以外の理由が大きく影響していたということは紛れもない事実です。

 私自身、医療や福祉の現場に勤務していた約10年間に、多くの離職者と関わってきました。また、前述の通り、介護職員の離職については多くの研究報告があります。これらの経験や報告をもとに介護職員の離職理由を概観すると、やりがい、人間関係、賃金といった「仕事上の問題」と、結婚や出産、転居や介護といった「家庭の問題」の2つに分けることが出来ます。さらに、それぞれには、自分自身の価値観や思いからわき起こってきて、ある程度自分自身でコントロール可能な「内的要因」と、周囲からの強い影響によるもので、自分自身ではコントロールしにくい「外的要因」があると思います。これを図にすると、図1のようになります。私が聞き取り調査を行った結果、早期離職の最大の理由として挙げられていたのは、仕事上の問題かつ内的要因だったのです。

 例として、2人の語りをご紹介します。

Aさん(21歳女性)特養を1年2か月で退職
 
 ウチら同期が仲良すぎたからかもしれないんですけど、先輩達との関係がいま一つになってました。気にし過ぎかもしれないんですけど、なんか悪口とかも言われてたみたいでしたし。仕事に対する提案とかもしたんですけど、あまり聞いてもらえませんでしたから。

Bさん(23歳女性)老健を6か月で退職

 休憩室とかで他の職員と一緒になった時は、かなり必死でした。話題探しっていうか、とにかく仲良くならなきゃって思って。かなり気を使って話してましたけど、あまり上手く話せなかったですね。

 この二人の語りからは、「周囲の職員と良好な関係を築かなければならない」と努力していたものの、良好なコミュニケーションを図ることが出来なかった様子が読み取れます。ここで大切なことは、「新人からは働きかけがしにくい」という現実です。これは、実習指導の時にも感じるのですが、立場的に弱い者からの働きかけというのは、周囲が考えている以上に難しいものです

そして、もう一つ大切なことがあります。読者の皆さん自身も経験があるかもしれませんが、自分が弱い立場の時に、強い立場の人から気さくに話しかけてもらうと、ものすごく嬉しく感じるということです。新入職員の時に、先輩が笑顔で冗談を言ってくれたり、実習初日で緊張している時に、実習指導者から一言褒められたりすると、ものすごく嬉しく感じる、あの感覚です。何気ない一言でも、大きなプラスの影響を与える事になりますので、このことを意識して、周囲との関わりをもっていくことが大切です。

さて、このコーナーは「いきいきリーダー養成講座」です。リーダーの皆様は、介護現場においては、「強い立場」でしょうか、「弱い立場」でしょうか。様々なキャラクターのリーダーがいると思いますが、少なくともコミュニケーションの面からみると、リーダーは「強い立場」として存在していると思います。このことをしっかり自覚することが、リーダーとして良好な人間関係を作る上での第一のポイントです。つまり、「弱い立場からは話しかけにくい」、「強い立場の人から気さくに話しかけられると、とても嬉しく感じる」という2点から考えると、良好な人間関係を構築する上では、「リーダー側からの意図的な発信」がとても重要であり、かつ効果的です。そこで、すぐにでも実践可能で現実的な方法として、前回の「リーダーこそ“魅力”を語ろう!」2)にも書きましたが、「毎日必ず1回はスタッフを褒める」ということを推奨します。前号では「スタッフに介護の仕事の魅力を自覚してもらうため」という目的で紹介した実践方法ですが、これは良好な人間関係作りの観点からも非常に重要で、リーダーに代表されるような「強い立場」の人には欠かせない実践であり、より効果が期待できるものと言えます。

次に、日々の会話で心がけるべきことについて考えてみましょう。よく聞くたとえ話ですが、コップの中に半分だけ水がある場合に、「水はあと半分しかない」と考えるか、「水はあと半分もある」と考えるかという話があります。どちらもコップの中にある水の量は同じですが、捉え方によって、肯定的にも否定的にもなります。これは、良好な人間関係を構築する上では、とても大切なことです。つまり、「目の前で起きている事象を出来るだけ肯定的に捉え、否定的な会話に偏らないように配慮すること」が、良好な人間関係を作る上では重要になってきます。

どのような職場であっても、いい事といやな事は混在しています。私の経験上、何かしらの配慮がなされないと、「今日も職員が足りない」、「上司は全く現場のことを理解してくれない」といった、否定的な会話が増えてきます。こうなると、負の連鎖といった感じで、否定的な会話が否定的な会話をよび、ついには魅力のない職場になってしまいます。

「今日も職員が足りない」という意見が出そうな時には、「少ない人数の中でも、あの場面では利用者さんがとても喜んでいた」と発信したり、「上司が理解してくれない」という意見が出そうな場面では、「この提案を、どうしたら上司が理解してくれるか、一緒に考えましょう」と発信することにより、同じ状況でも、肯定的な会話を生み出すことが可能です。全ての場面でこういう対応をすることは難しいかもしれませんが、普段からリーダーが、肯定的な会話を生み出すように意識しておくことが、良好な人間関係を作る上での第二のポイントです。

 今回の内容をまとめると、以下のようになります。

@ 職場の人間関係は、職員の職場定着の観点からも非常に重要である。

A 立場の弱い人(新入職員や実習生)から働きかけることは難しい場合が多い。

B 立場の強い人(リーダー)から話しかけられると、立場の弱い人は嬉しく感じることが多い。

C リーダーからの意図的な発信は、良好な人間関係を構築する上で効果が大きい。

D 具体的な方法としては、スタッフを褒めること、否定的な会話にならないように配慮することが大切である。

 ここまで読んでくださった方の中には、「こんなに大変な気遣いをしなければならないのならば、リーダーになんかなりたくない」と思う人もいるかもしれません。でも、以前にも書きましたが、何も完璧を求める必要はありません。出来る範囲で、少しずつ気配りをすること、それをコツコツ積み重ねることが最も重要なことです。良好な人間関係は、「何となく出来るもの」ではなくて、リーダーが中心になって、意識的に作り上げていくものだと私は思います。

 すぐに結果を求めるのではなく、日々の小さな配慮の積み重ねの先に、人間関係の良い職場があるのだと思います。小さなことから一歩ずつ、魅力的な介護現場を作っていきましょう。

【引用文献】

1) 古川和稔:介護福祉士の早期離職に関する質的研究,自立支援介護学,Vol3,No2,P.78〜85,2010.

2) 古川和稔:リーダーこそ“魅力”を語ろう! 介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 第2回,相談援助&運営管理,5月号

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C介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座(連載第4回)、
 研修を生かしてチームをつくろう!、平成24年11月

 4回にわたって連載してきた「介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座」も、とうとう最終回になりました。第1回は「今日から出来る“自己覚知”」と題して、周囲や過去にとらわれるのではなく、自分と未来に焦点を合わせて行動していくことの重要性について解説しました1)。第2回は「リーダーこそ“魅力”を語ろう!」と題して、リーダー自身が介護の仕事の魅力を感じ、それを周囲の職員にも伝えていくことの大切さと、その実践方法を述べました2)。第3回は「良好な人間関係を作ろう!」と題して、職場の人間関係を良好にするための具体的な方法を紹介しました3)。そして今回は、この連載の総まとめとして「研修を活かしてチームを作ろう!」というテーマにしました。スタッフが興味をもって参加出来る研修や、効果を実感出来る研修の実践方法と、それを活かしてよりよいチームを作っていく方法について考えてみたいと思います。

 そもそも研修は事業所全体に関わるものですから、介護現場のリーダー一人で計画を進めていくようなものではありません。しかし、「他人まかせ」にするのではなく、「このような目的から、このような研修計画を考えている」と提案することは、非常に重要なことです。なぜならば、このような提案こそ、第一回目の連載に書いた「自分と未来に焦点を合わせた行動」だからです。そして、研修がうまく機能すれば、スタッフ間の会話が「次回の研修ではこんなことを…」といった、プラスの話題になっていきます。「今日も人が足りない」、「休みが取れない」といったマイナスの話題ではなく、このようなプラスの話題にもっていくことがチーム作りのポイントです。これこそ、第二回目の連載に書いた「リーダーこそ“魅力”を語ろう!」の本質であり、第三回目の連載に書いた「良好な人間関係を作ろう!」の実践方法となります。

 さて、読者の皆様は、研修と聞いた時にどんな学び方を思い浮かべますか。一言で研修と言っても、その方法や内容は実に様々です。例えば、外部から呼んだ講師の話を聞くような研修もあれば、職場のスタッフが講師になるような研修もあるでしょう。あるいは、座学ではなく、移乗介助などの実技を行う研修も考えられます。このように、研修のスタイルは何通りもありますが、それらに共通する重要なポイントがいくつかあります。まずは、そのことについて解説したいと思います。
 第一に、「本当は出たくないけど、仕方がないから参加する」というような研修では、あまり効果は期待出来ません。「そんなことは当たり前だ」と思う方も多いかもしれませんが、残念ながら、このような研修を行っている事業所が少なからずあるという現実もあります。かと言って、みんなが参加したいと思うような、人気のある有名講師を何度も繰り返し呼ぶというのは、経費の面からも現実的ではありません。では、どのように考えたら良いでしょうか。

私は、研修には、大勢が集まって行うような、いわゆる「施設レベル」の研修もあれば、個々に学習する「個人レベル」の研修もあると考えています。さらに、その中間に位置する、ユニット単位やフロア単位での、「チームレベル」の研修も存在すると考えています。これらを適切に組み合わせることにより、単調ではなく変化のある研修計画を立てることが可能になり、その結果、参加者に主体性が生まれてくるものと思います。

 第二に、「やりっぱなし」の研修も、効果が小さいと言えます。単発の研修で見聞きした程度のことは、よほどインパクトのあることでない限り、数か月も経てば忘れてしまいます。「やりっぱなし」の研修にしないためには、連動性を持たせた年間の研修計画を立てることと、その年間研修計画の中に「振り返り」を位置づけておくことが重要です。
 第三に、「大勢の中の一人」という立場で参加する研修ばかりでは、これもまた効果が薄くなります。「いつも主役」という訳にはいかないまでも、時には、自分の考えを述べたり、あるいは自分が前面に出るような場面がないと、「常に受け身」になってしまい、研修に対する関心が薄くなってしまいます。

 この問題に対しては、インプット型の学びとアウトプット型の学びを組み合わせることで対応可能です。インプット型とは、本を読んだり、講義を聞いたりして知識を入れていく方法で、個々の職員が知識や技術を取り入れていくタイプの学び方です。一般的に行われている多くの研修はこのスタイルで、私たちが小学校や中学校で経験してきた、教室で先生の授業を聞くという学習スタイルは、典型的なインプット型です。一方、アウトプット型とは、自分の意見を話したり、記述したり、あるいは他者に教えるタイプの学び方で、個人の中にある知識や経験を外部に発信していく方法です。何も、大勢の前で発表することだけがアウトプット型学習ではありません。自分の思いを記述することもアウトプット型学習であり、適度にこのスタイルを用いることにより、研修参加者が極端に受け身になることを防ぐことが出来ます。

 ここからは、具体的な研修計画の例を示しながら解説していきたいと思います。繰り返しになる部分もありますが、研修計画を立てる際のポイントを整理しておきます。

@ スタッフが主体的に参加できる研修内容にする。

⇒「施設レベル」、「チームレベル」、「個人レベル」の研修を組み合わせる。

⇒「インプット型」と「アウトプット型」の研修を組み合わせる。


1 インプット型研修とアウトプット型研修の例(筆者作成)

 

インプット型

アウトプット型

個人
レベル

・専門書や解説書を読む

DVDなどを視聴する

・疑問や課題の抽出

・気付いたことの抽出

チーム
レベル

・理論の整理(聴講者)

・実技の確認(参加者)

・理論の整理(発表者)

・実技の確認(発表者)

施設
レベル

・外部講師による講演(聴講者)
・理論と実技の講義(聴講者)

・理論と実技のプレゼンテーション

(発表者)



A 「やりっぱなし」の研修にならないようにする。

⇒年間計画を立てる際に「振り返り」を位置づける。

⇒あれもこれもと欲張らずに、「年間テーマ」を決めて、そのテーマに沿って年間計画を立てる。

 今回は、移乗介助や食事介助などの「介護技術」をテーマにした研修計画を例に考えてみたいと思います。まずは、「介護技術」に関して、インプット型研修とアウトプット型研修を、個人レベル、チームレベル、施設レベルという階層に分けて整理してみます。

 表1で示した内容はあくまで一例ですが、効果的な研修を組織として行うためには、これらの要素を組み合わせて年間の研修計画を立てることが重要になります。年間研修計画を立てる際には、先に述べた通り「振り返り」を意識することが重要です。個人で学習して疑問に思ったことや気付いたことは、チームレベルの研修で解決したり伝達したりすることにより、振り返ることが可能です。チームで学んだことは、外部講師を招いての施設レベルでの研修や、年度の最後に行なう、研修リーダーや副リーダーによる「振り返りの講演」で、文字通り振り返ることが出来ます。

 加えて、研修開催日時の設定にも多少の工夫が必要です。入所型の介護現場では変則勤務が多いために、「勤務の都合で研修に参加出来ない」という職員が出てきてしまうからです。そこで、例えばユニットやフロアごとの「チームレベル」の研修を別日程で設定します。これにより、自分のチームの研修に参加出来なかった職員が、別のチームの研修に参加することが可能になります。

@ 5月(施設レベル)全体研修(施設長、研修リーダーによる講演)
(なぜ介護技術を学ぶのかについて共通認識をもつ)

 

A 7月(チームレベル)具体的な進め方の確認
(専門書や視聴教材などの情報提供、疑問や課題などの抽出方法の説明)

 

B 7月〜通年(個人レベル)個人の学びと課題の明確化
専門書を読む、DVDなどを視聴する、疑問・課題・気付きを書きだす

 

C 9月(チームレベル)疑問の解消、知識と技術の確認と習得@
(個別に書き出した項目についての議論、個別に習得した技術の伝達)

 

D 11月(チームレベル)疑問の解消、知識と技術の確認と習得A
(講師役を変えて、個別に書き出した項目についての議論、個別に習得した技術の伝達)

 

E 2月(施設レベル)外部から講師を招いての勉強会

 

F 3月(施設レベル)全体研修(研修リーダー・チームリーダーによる振り返り講演)

1年間の学びを振り返り、成果と課題のプレゼンテーション)


 ここからは、研修の中身について、もう少し具体的に説明します。

@ 5月(施設レベル)全体研修(施設長、研修リーダーによる講演)

 年間を通して行う研修のテーマが決まったら、年度初めに全体研修を行い、「このテーマで学ぶ意義」や「施設としての方針」について共通認識をもつことが重要です。個々の職員は様々な価値観をもっているので、「施設としての方向性」を明確にしておくことが、チーム作りの観点からも重要です。


A 7月(チームレベル)具体的な進め方の確認

 次に、フロアやユニットの「チームレベル」で、具体的な学び方について確認します。これまで述べてきたように、「個人レベル」、「チームレベル」、「施設レベル」という階層があることや、「インプット型研修」と「アウトプット型研修」があることを説明します。さらに、それぞれの具体的な進め方についても明確に示します。個人レベルでの学びに活用する、専門書や視覚教材の使い方、疑問点や学んだことをメモにとっておくことなどを伝達します。

 チームごとに開催日程をずらし、勤務の都合で参加出来なかった職員は、別のチームの回に参加し、具体的な進め方を理解出来るような配慮も必要です。


B 7月〜通年(個人レベル)個人の学びと課題の明確化

 変則勤務が多い上に多忙な介護職員は、まとまった時間をとって学ぶことが難しい環境といえます。そこで効果的に活用したいのが、この「個人レベル」での学びです。休憩室や仮眠室、職員食堂など、日頃から目に触れやすい場所に、実践的な専門書や視覚教材を配置し、休憩時間などを有効活用しながら自由に学べる環境を整えます。
 ここで重要なのは、「本を読んで終わり」、「DVDを観て終わり」にせずに、きちんとメモをとっておくことです。個々のノートに記録する方法もありますし、1冊のノートに皆が書き込んでいく方法もありでしょう。パソコン環境が整っている事業所ならば、電子データとして記録しておくのも有効です。


C 9月(チームレベル)疑問の解消、知識と技術の確認と習得@

 個人レベルで学んできたことの振り返りの場として、年度半ばにチームレベルの研修を設定します。発表者にとってはアウトプットの場、発表者以外の参加者にとってはインプットの場となります。フロアやユニットレベルの人数ですので、自由な雰囲気で積極的に議論したり、実技の確認をすることが出来ます。


D 11月(チームレベル)疑問の解消、知識と技術の確認と習得A

 チームレベルの研修は、別日程でも開催することが有効です。前回とは発表者を変えることで、別の職員にとってのアウトプットの場になると同時に、勤務の都合などで自分が所属するチームの研修に参加出来なかった職員が参加出来る場にもなるからです。


E 2月(施設レベル)外部から講師を招いての勉強会

 これは予算の都合もあるでしょうから、「可能であれば開催する」程度の位置づけでも良いかもしれません。外部講師を招いて新しい価値観を身に付けたり、これまでの研修についてコメントをもらうことは、職員全体のモチベーションを上げる効果が期待できます。


F 3月(施設レベル)全体研修(研修リーダー・チームリーダーによる振り返り講演)

 年度の終わりに、「年間研修の振り返り」を全体で行います。研修全体のリーダーや、フロアやユニットのリーダーが、年間研修について振り返り、報告します。年度初めの全体研修で確認した「学ぶ意義」や「施設としての方向性」を踏まえて、成果や課題を振り返っていきます。


 今回は介護技術をテーマにした年間研修計画の例を挙げて説明しましたが、実際に研修計画を立てる際には、それぞれの事業所の実情に合わせて設定すれば良いと思います。

研修回数や内容は様々になりますが、共通するポイントは、以下のようになります。


@個人、チーム(ユニットやフロア)、施設というように、階層を意識する。

Aインプット型とアウトプット型を組み合わせる。

Bそれぞれが連動するような研修体系を考慮する。

C振り返りながら学べるような流れを意識する。


リーダーにとって大切なことは、研修は「学びの場」であると同時に、「チーム作りの場」であることを意識することです。これまでの連載で色々なことを書いてきましたが、決して100点満点を求めるのではなく、「昨日よりも少しだけ前向きな自分」を意識すれば、きっと素敵なリーダーになれると思います。

介護現場がますます明るく魅力的になることを願って、この連載を終えたいと思います。最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

【引用文献】

1) 古川和稔:今日から出来る「自己覚知」,介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 第1回,相談援助&運営管理,2月号,p11-14,2012.

2) 古川和稔:リーダーこそ“魅力”を語ろう!,介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 第2回 相談援助&運営管理,5月号,p11-15,2012.

3) 古川和稔:良好な人間関係を作ろう! 介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 第3回,相談援助&運営管理,8月号.

(おわり)

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古川 和稔 
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