COLUMN

介護走り書き(連載14回目)

これまでの連載では、私自身の経験に基づいて話してきましたが、今回はちょっと内容を変えて、「離職に関する研究」からみえてきたことについてお話ししたいと思います。

 私はこの5年間、インタビュー調査やアンケート調査を何度も行い、さらには実際に実習のような形で介護に関わらせていただきながら、介護職員の離職問題について研究してきました。当然のことですが、離職率の高い施設もあれば、離職率の低い施設もあります。さて、ここで読者の皆さんに質問です。

「離職率の高い施設と、離職率の低い施設、どちらが良い施設でしょう?」

 おそらく多くの方は、「離職率が低い施設は、職員が辞めない施設、つまり職員が長く働いている施設なんだから、そっちがいいに決まっているだろう!!」と思われるのではないでしょうか。
 ところが、実際にはそう単純な問題でないことが分かってきました。
 離職率が低い施設、すなわち、職員が辞めない施設は、両極端な2つのパターンに分類出来ます。

パターン①:職場の人間関係が良好で、職員がみな高い志をもち、専門的な介護福祉実践を行っている施設。

パターン②:職員の仕事に対する意欲が異常に低く、ひどいサービスを提供している施設。

 パターン①は、非常に望ましい施設で、そのまま専門的な介護福祉実践を続けて欲しいのですが、問題はパターン②に分類される施設です。なぜ「ひどい施設」なのに離職者が少ないのかというと、「こんなに楽な職場は他にはない」と考えている職員が多いからです。

 ちょっと衝撃的な内容ですが、いくつかの例を挙げます。例えば、パターン②に分類されるA施設は、夜勤は2人体制で、本来は1時間ごとに各部屋を巡視(見回り)し、夜勤者は交代で2時間ずつ仮眠をとることに決められています。しかし、その2人の夜勤者で勝手にルールを変更して巡視の回数を減らし、4時間ずつ仮眠をとっているとのことでした。この職員に言わせると、「他の施設じゃ仮眠4時間もとれないから、この施設を辞めたくない」となる訳です。
 また、B施設では、日中、4回のオムツ交換を行うと決められていますが、ここでも職員によっては勝手にルールを変更して、オムツ交換の回数を3回や2回に減らしていました。この職員に言わせると、「こんなに楽な施設はないから辞めたくない」となる訳です。

 つまり、単純に離職率だけでは、介護福祉実践の問題の本質は語れないということです。ちなみに、離職率が高い施設は、パターン①とパターン②の間に位置づけられます。これをパターン③としましょう。このパターン③のなかにも、さらに2つのパターンがあります。

パターン③A:勉強熱心で、仕事に対する意欲が高い職員が影響力をもっているが、そういう職員の数はあまり多くない施設。ここでは、勉強熱心でなかったり、仕事に対する意欲に欠ける職員は居心地が悪くなり、辞めていく。

パターン③B:ヤル気のない職員の影響力が強い施設。高い志をもって就職した職員は、理想とのギャップに悩み、辞めていく。

 もちろん、一般的に報道されている賃金や人手不足の問題も無視出来ないことは事実です。しかし、賃金や職員配置に大きな差がないにも関わらず、離職率が高い施設とそうでない施設があるという現実に着目すると、離職率を下げ、介護福祉実践現場において職員確保をしていくための方策がみえてきます。
 詳しくは次号でお話しますが、そのカギは「介護福祉実践における専門性」に他ならないのです。
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