COLUMN

介護走り書き(連載15回目)

 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。震災後、日本全体が大変な状況となり、私の身内や友人からも悲しいニュースが入ってきていますが、今は倹約しながら勤勉に、一生懸命がんばることが大切だと思っております。
 一方で、明るい話題もいくつかあります。その一つとして、私の勤務校である宇都宮短期大学には、今年も多くの新入生が入学してきてくれました。とても嬉しいことです。教員として着任してから5年目のスタートとなりますが、初心を忘れず、毎日が真剣勝負という気持ちで日々学生達と向き合っていきたいと思います。

 さて、前号では、「離職率だけではみえない大切なことがある」ということについて触れました。「離職率が低い施設=良い施設」という方程式は、成立する場合もあれば、成立しない場合もあること、離職率が高い施設、離職率が低い施設、それぞれに2つのパターンが存在するということについてお話しさせていただきました。

 私は、本学の卒業生をはじめとした多くの介護職員や、福祉事業所を経営されている方から直接お話しを伺う機会が多々ありますが、職員、経営者双方から、「離職者が多い」、「人手が足りない」との声を聴きます。
 これは、(財)介護労働安定センターが実施した全国調査「平成21年度介護労働実態調査」の結果とほぼ同じです。同調査によると、介護労働者を対象とした「働くうえでの悩み、不安、不満等」では、回答者の約4割にあたる39.4%が人手不足を挙げ、事業所を対象とした「従業員の過不足状況」では、全体の半数近くである46.8%が「介護職員が不足している」と回答しています。
 介護職員の離職原因として、マスコミ報道等では、低賃金や重労働が取り上げられることが多いようです。確かに、「賃金や重労働の問題が全くない」と言えばウソになりますが、実際より大げさに報道されている場合があること、また、介護職員の職場定着を図るうえでは、もっと優先すべき課題があることをお伝えしたいと思います。

 まず、介護職員の賃金は、全産業の中でどの程度に位置しているのかについてお話しさせていただきます。平成21年に、山田篤裕先生と石井加代子先生という二人の経済学者が「介護労働者の賃金決定要因と離職意向」という論文を発表しています。この研究は、総務省が約100万人を対象に行った調査データを非常に丹念に分析したものです。この論文では、「介護職の賃金水準は(看護師より低いとはいえ)全産業の中間からやや上に位置する」と報告しています。
 私は、「介護職員の賃金は現在のままでよい」と言いたくてこの分析結果を紹介したのではありません。ただ、印象だけで「介護職員の賃金は、生活を維持出来ないほど安い」と断定するのは、少し乱暴ではないかと思うのです。

 しかし、そうは言っても賃金に対する不満があるのは事実ですから、そうであれば、「賃金を上げるためには何が必要か」という議論が必要です。「賃金を上げろーーっ」と叫ぶだけでは無意味なのです。当たり前のことですが、「誰にでも出来る簡単な仕事」でありながら「高賃金」という“おいしい仕事”は世の中にはありません。つまり、世間の人々が「介護職員の仕事は専門性の高い業務だ」と認めてくれない限り、賃金上昇議論は、空しい議論になってしまいます。
 禅問答のようになってしまいますが、それでは、「介護業務の専門性」とは何でしょうか?私のこれまでの経験と研究で得た知見から考えますと、それは「自立支援」に違いありません。「自立支援」という言葉は介護業界でよく耳にする言葉でもありますが、誤った意味で使われている場合があるようです。そこで、次号では、「自立支援」の意味と、介護福祉実践現場が目指すべき「自立支援」についてお話したいと思います。
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