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介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第1回)、今日から出来る「自己覚知」、平成24年2月

介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第1回)、今日から出来る「自己覚知」、平成24年2月
新連載、「介護現場を楽しく生きる!リーダー養成講座」のはじまりです!!

このコーナーは、私自身が経験してきたこと、学んできたこと、研究していることなどを踏まえ、読者の皆様に、「よし!今日から実践してみよう!」と思っていただけるような、分かりやすくて役に立つ内容にしていきたいと思っております。一生懸命書いていきますので、最後までお付き合いください。

さて、連載初回の今回は、福祉専門職に求められる能力として挙げられることが多い“自己覚知”について考えてみたいと思います。この“自己覚知”という言葉、一般の社会では、あまり馴染みがない言葉ですが、福祉の分野では良く使われています。簡単に言うと、「自分自身を良く知ること」ですね。これは、簡単そうで、実は相当難しいことだと思います。

 プロフィールの欄にも書いてありますが、私は、大学を2年で中退し、20歳から27歳までの8年間、プロのお笑い芸人として活動(「活躍」でないのが残念!)していました。私が芸人だった時代は、お笑いのネタを披露するテレビ番組はほとんど無く、年に数回の深夜番組を除けば、ライブハウスや地方の営業が主な仕事場でした。毎月開催されるライブでは、必ず新ネタを披露しなければならない決まりがあったので、常にネタ作りと稽古に追われていました。深夜の公園で漫才の稽古をしていると、ホームレスの方々が集まってきて、「相変わらず面白くねぇーな」なんて、ダメ出しされては傷ついたものです(笑)。とにかく、最低でも月に一本は新しいネタを作らなければならなかったので、仕事帰りのサラリーマンが集まる小さな居酒屋に行っては彼らの会話を聞き、「ふむふむ、サラリーマンはこんなことに興味をもっているのか」と考え、それをもとに、漫才やコントのネタを作ったものです。その時に圧倒的に多かった話題は、上司や同僚、部下の悪口でした(笑)。「課長は全然分かってくれない」とか、「今度入ってきた新人は、何を考えているのかサッパリ分からない」といった会話から始まり、そのうち酔っぱらってくると、「あのヤロー!」みたいに怒鳴っている人もいました。当時の私は、「何でこの人たちは、自分の事は棚に上げて、他人のせいにばっかりしているのだろう」と思い、そのような会話がとても滑稽に思えて、お笑いのネタにしていました。しかし、今振り返ると、私達芸人はもっとひどかったような気がします。私は毎月、7~8組の若手芸人が出演するライブに出演していました。そのようなライブでは、楽屋は一つだけですので、出番を待っていると、すでに出演を終えた芸人が楽屋に戻ってきます。しっかり笑いをとってきた芸人は上機嫌で戻ってきますが、笑いをとれなかった(すべった)芸人は不機嫌そうに戻ってきます。そして、すべった芸人が必ず口にする言葉がありました。それは「今日の客はひどい!」というセリフです(笑)。これこそ、先ほどのサラリーマンの数倍上をいく身勝手さですよね。自分達のネタがどうだったかという反省ではなく、開口一番「今日の客はひどい!」ですから。これらの出来事から言えることは、サラリーマンも芸人も、自分が思うような結果を出せなかった時には、「課長が…、新人が…、今日の客は…」と、ついつい他人のせいにしてしまうということです。では、なぜ他人のせいにして、自分自身を省みないのでしょうか。それは、「他人は見えやすく、自分は見えにくい」からだと思います。周囲の人の言動は、否が応でも目に付きます。一方、自分自身の言動や考えは、普段はあまり意識しません。ましてや、自分の状態が悪い時には、どうしても「見えやすいもの」しか見えなくなってしまい、結果として、他人のせいにしてしまうのだと思います。

 ここまでは、「他人と自分」で考えましたが、これを時間に置き換えても、同じようなことが言えます。時間、すなわち、「過去と未来」で考えてみると、「過去は見えやすく、未来は見えにくい」のではないでしょうか。物事がうまくいかない時には、「これまで自分は一生懸命勉強してこなかったから、今はこんな状態なんだ」とか、「自分は○○の資格を持っていないから、認めてもらえないんだ」と、過去にばかりとらわれてしまいます。

「他人と自分」、「過去と未来」、この2つの話には、重要な共通点があります。それは、「見えやすいもの=変えられないもの」であり、「見えにくいもの=変えられるもの」ということです。課長の悪口をどんなに頑張って言っても課長は変わりませんし、客の悪口をいくら言っても、笑わない客が急に笑い出すことはありません。また、過去をどんなに悔やんでも、過ぎてしまった過去は変える事は出来ません。そう考えると、状態が悪い時こそ、「見えにくいもの=変えられるもの」に焦点を合わせる努力が必要になってくると思います。

福祉実践現場でリーダーとして活躍されている皆さんは、部下はもちろんのこと、上司や同僚、医療職や事務職などの他職種、さらには利用者やその家族など、常に他者と関わりながら仕事をしています。そこでは当然、思うようにいかないことも多々あるでしょう。その時こそ、「周りは分かってくれない」ではなくて、「自分がどうしよう」と考えてみることが大切だと思うのです。そして、「これまで○○だったから、こうなっちゃったんだ」と考えるのではなくて、「これまでの事はともかく、これからどうしようか」と考えれば、道がひらけてくると思います。なぜならば、繰り返しになりますが、いくら悩んだところで、他人と過去は変えられないからです。

 ここでお断りしておきますが、私は失敗の多い人間で、数年前までは、このような考えとは無縁の人間でした。私の数々の失敗談については、連載の中でおいおい紹介させていただきますが、とにかく、かつての私は、「他人のせい」、「過去のせい」のオンパレードでした。先ほども書きましたが、芸人時代は、ネタが受けなければお客さんのせいにしていました。芸能界を引退してからの約1年間は日雇い派遣のアルバイトをしていましたが、その時は、「大学中退の芸人崩れだからこんな暮らしなんだ」と、過去のせいにばかりしていました。また、その後、老人ホームに就職して介護職員になったのですが、介護の仕事で行き詰ると、いつも「自分はきちんと学校で学んでこなかったからダメなんだ」とか、「自分は資格がないから認めてもらえないんだ」と、ここでも過去のせいにしていたのです。こんなダメダメ人間だった私の考え方が変わったのは、「調子がいい時の自分」と「調子が悪い時の自分」の違いについて意識したのがきっかけでした。ある時、仕事の状態や自分の気持ちに波があることを、ボンヤリと考えていました。そして、調子がいい時には何を考えていて、調子が悪い時には何を考えているのかを、書き出してみたのです。そうすると、調子がいい時には、自分のことや将来のことを考えていて、調子が悪い時には、他人のことや過去のことばかり考えているということが分かったのです!

私は28歳の時に、無資格無経験で老人ホームに就職しました。働き始めてから勉強の必要性を痛感し、まずは2年間の通信課程で介護福祉について学びました。その後、デイサービスに勤務しながら、理学療法士養成校(夜間部)で4年間学びました。さらに、仕事を続けながら大学院に入学し、修士課程で2年間、博士課程で3年間の、計5年間学びました。加えて、社会福祉士の資格を取得するために、通信制の学校で2年間学びました。28歳から今まで、のべ13年間、仕事をしながらの勉強でしたので、勉強時間の確保が難しく、相当苦労をしましたが、働きながら勉強している状態というのは、まさに「自分」と「未来」を考えている状態だったのです。変えられる自分、変えられる未来に焦点を合わせている時は、苦労を苦労とも思わずに頑張ることが出来、調子が悪くなると、変えられない他人と変えられない過去に焦点を合わせていたのだということが分かり、気分がすっと楽になったのです。

 今回のテーマの“自己覚知”は、福祉専門職、とりわけリーダーには不可欠な要素です。でも、どのようにして自分自身を知れば良いのかは、非常に難しいことです。そこで私は、この連載を読んでくださっているリーダーの皆さんに、“今日から出来る自己覚知”として、「自分と未来に焦点を合わせるように意識して、仕事を進めていくこと」を提案したいのです。「他人」や「過去」といった、変えられないものばかりを見ていたのでは、不満が募るばかりで、自分自身を知ることは出来ません。変えられるもの、すなわち、「自分」と「未来」に焦点を合わせて一歩ずつ進んでいくことにより、結果として、自分自身を理解することが出来るようになると思うのです。

 私自身の経験を振り返ると、以下のようなイメージです。

1-(1) 従来の考え(   は過去、   は他人)
「以前に業務改善の提案をしても、上司は全く聞き入れてくれなかった。今回、新たに提案してみたいことがあるが、きっと無理だろう。上司はどうして理解してくれないんだろう」

1-(2) 自分と未来に焦点を当てる(   は未来、   は自分)
「業務改善前と改善後を分かりやすく整理して、上司や同僚の前でプレゼンテーションしてみよう。そうすることにより、自分自身の考えが整理出来るし、説得力のある説明が出来るようになるかもしれない。その結果、上司は理解してくれるかもしれない」

2-(1) 従来の考え(   は過去、   は他人)
「これまで勉強してこなかったから、資格がない。昇進も昇給も無理だろうし、やりがいも見出せない職場だ」

2-(2) 自分と未来に焦点を当てる(   は未来、   は自分)
「仕事を続けながら通信課程で勉強して、新たな国家資格に挑戦してみよう。所持資格が増えたら新たな介護観をもつことが出来、仕事のやりがいにつながるかもしれない」

 この例のように、置かれている状況が同じであっても、考え方によっては前向きに捉えることが出来ます。物事を前向きに考えるためには、意識して「自分と未来に焦点を当てること」が重要で、さらに、そのような思考をもっている自分を客観的に理解しておくことが重要です。これが、私が考える「リーダーに必要な自己覚知」なのです。

だからと言って、「全ての出来事を前向きに捉えなければならない!」という様に、完璧を求める必要はありません。例えば、60点が合格ラインの試験で、得点が70点だった場合、60点の合格ラインから見れば「プラス10点」、100点満点のところから見れば「マイナス30点」となります。

「昨日よりも少しだけ前向きな自分」、すなわち「プラス10点」の自分を客観的に見ることが出来、そこから今後を考えていけるようになれれば、きっと周囲から信頼される、魅力的なリーダーになれると思います。
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