連載2回目の今回は、「リーダーこそ“魅力”を語ろう!」というテーマでお送りします。この連載の目的は「いきいきリーダーを養成すること」ですので、現在リーダーとして頑張っている方をイメージしながら進めていきたいと思います。
さて、組織の大小に関わらず、リーダーと名のつくポジションにいる方は、周囲に様々な影響を与えています。それは、「いい影響」の場合もあれば、「悪い影響」の場合もあるでしょう。リーダーが「いい影響」を与えることが出来れば、周囲は「頑張ってもっといい仕事をしよう!」という雰囲気になり、組織全体がプラスの方向に進みますが、反対に「悪い影響」を与えていれば、仕事に対するやる気が低下して、組織全体がマイナスの方向に進んでいきます。このように、リーダーの役割はとても重要です。
では、周囲にいい影響を与えることが出来るリーダーになるためには、何が必要なのでしょうか。まずはリーダー自身が、自分の職業に魅力を感じ、誇りをもつことが重要です。
私は20歳で大学を中退し、それから27歳までの約8年間、プロのお笑い芸人として活動しました。プロと言っても売れない無名の芸人だったので、当時はかなりの貧乏生活でした。とにかくお金がなく日々の生活に困っていたので、ありとあらゆるアルバイトを経験しました。レストランのコック、喫茶店、スキー場、建設現場など、正確な数は分かりませんが、おそらく数十種類のアルバイトを経験したと思います。その時の経験から、どんな職業にも、「いい面」と「悪い面」があるということを知りました。そして、どんな職業にも、いきいきと働いている人もいれば、文句ばかり言ってつまらなそうに働いている人もいるということも分かりました。人間の思考はわがままなもので、最初は有り難いと思ったことでも、その状態が続くと、それは「当たり前のこと」に感じるようになってしまいます。それに引き替え、不平や不満などの「イヤなこと」は、慣れるどころか、時間が経つにつれてどんどんその思いが大きくなっていくものです。人間の欲がそうさせるのかもしれませんが、本当に勝手なものです。こうなると、誰かがこれをコントロールしなければ、いつの間にか不平や不満だらけの職場になってしまいます。コントロールというのは、自分の職業の魅力を「当たり前のこと」ではなく「有り難いこと」と感じることが出来るような配慮や、不平や不満を小さくしていくような配慮です。この配慮こそが、介護現場のリーダーに求められているマネジメント能力であり、このマネジメントがうまく機能しないと、顔を合わせれば、「今日も人が足りない」、「休みが取れない」、「あの利用者はわがままで」といった、マイナスの会話ばかりの職場になってしまうのです。こうなると負の連鎖で、さらに不平不満に拍車がかかりますので要注意です。この負の連鎖を生まないためには、リーダー自身が自分の職業に魅力を感じ、それを周囲に伝えて、認識させることが重要です。
介護現場のリーダーと業務内容について話していると、「毎月の勤務表を作るのが大変で…」という話をよく聞きます。確かに、たとえ少人数の職員で構成されるユニットであっても、休みの希望を取り入れながら日々の職員数を確保する勤務表作りは、想像以上に大変な業務です。リーダーにとって、勤務表作りに代表されるような管理的な仕事が重要であることは事実ですが、これは介護現場のリーダーに求められるマネジメントの一部でしかありません。少し乱暴な言い方かもしれませんが、私は、勤務表作りよりも優先順位の高い仕事があると考えています。それは、リーダー自身が仕事の魅力を発信して、スタッフの職場定着を図ることです。私はここ数年、介護職員の離職問題をテーマに研究を続けていますが、離職者の多くは「仕事のやりがいのなさ」を離職理由として挙げています。魅力のない職場で働いていれば、やりがいを見出せないのも当然です。だからこそ、「リーダーからの魅力発信」が重要になってきます。なぜならば、職員の絶対数が不足してしまえば、勤務表作りどころの問題ではなくなってしまうからです。スタッフの不平や不満を小さくし、自分の職業の魅力を感じることが出来るような配慮こそが、介護現場のリーダーに求められるマネジメント能力だと言った理由は、こういうことだったのです。
仕事の魅力を発信するためには、まずはリーダー自身がその魅力を認識することが大切です。では、リーダー自身が自分の職業の魅力を認識するためには、何が必要でしょうか。その第一歩は、職業の特性を知ることです。
ここで改めて、介護の仕事の特性について考えてみましょう。ここでは、私自身の経験に基づいて、「お笑い芸人」と「介護」の2つの職業を対比させて考えてみたいと思います。読者の皆様は「お笑い芸人」という職業に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。私は、お笑い芸人の仕事は、常に一方向の仕事のような気がしています。お客さんの気持ちや考えは二の次で、とにかく自分達が作ったネタがどこまで通用するか押しまくるイメージです。お客さんの反応が薄ければ、「どうしてこのネタは受けないのだろう?」、「今日のお客さんはどんなネタを求めているのだろう?」などと悩むのではなく、笑いが起こるまで押しまくる強引さが求められる仕事であり、圧倒的なパワーがなければプロとして通用しない、一方向の世界です。つまり、「お客さんのニーズに合わせる」ではなく、「お客さんのニーズを超越したものを提供する」ことが、お笑い芸人の仕事の特性であり、実際に売れている一流の芸人は、一方向の圧倒的なパワーをもっています。これは、プロスポーツ選手も同様です。観客が期待するレベルのパフォーマンスでは、一流とは言えません。一流選手とは、観客が想像もつかなかったようなプレーを見せることが出来る、圧倒的な技術をもった、ほんの一握りの選手を指しているのです。
翻って「介護の仕事」は、一方向ではどうにもならない仕事です。なかには、「お風呂に入りたくない」と言っている利用者を無理やりお風呂に入れてしまうような、一方向で押しまくっている介護職員もいますが、それでは専門職としては失格です。介護場面でいうならば、「目の前にいる利用者の幸せを阻害している要因」を発見し、それを解決すべく、利用者と支援者が協力していく過程が重要です。つまり、目の前にいる利用者のニーズ(解決すべき課題)を把握し、利用者と協力しながら、そのニーズを解決していくことが求められます。決して、「ニーズを超越したサービス」などは必要とされていません。「利用者と介護者が、双方向で協力して作り上げていく仕事」というのが、介護の仕事の第一の特性だと思います。
次に、サービス業としての側面から、介護の仕事の特性を考えてみたいと思います。介護の世界では、利用者全員に均等均一なサービスを提供することが重要でしょうか?もちろん、そんな訳はありません。利用者の意向や置かれた状況によって、それぞれ必要とする支援は違って当然ですし、専門職であればその時々の状況に応じて支援の内容を変えていかなければなりません。ですから、サービスの提供に費やす時間を「1回5分以内」などと一律に設定することはあり得ませんし、やってはならないことです。つまり、「短時間で何人入浴させることが出来るか」とか、「オムツ交換をいかに早く終わらせるか」という部分に仕事の魅力を見出そうとしても、所詮無理な話なのです。なぜならば、それは介護の仕事の本質ではないからです。ハンバーガーショップにはハンバーガーを食べたい人が来ますし、ガソリンスタンドには、ガソリンを入れたい人が来ます。でも、介護現場の利用者は、職業的背景も、趣味も、価値観も様々で、当然、求めているサービスも様々です。利用者のニーズは一人ひとり違う上に、状況によって刻々と変化するものです。ここが他のサービス業と違う点です。すなわち、「個々の利用者が抱えているニーズの大きさや重みは異なり、それぞれに応じて適切なサービスを提供する仕事」というのが、介護の仕事の第二の特性です。
介護の仕事の特性
①利用者と介護者が、双方向で協力して作り上げていく仕事
②ニーズに応じて、均等均一ではなく、状況に応じた適切なサービスを提供する仕事
私がそんな介護の仕事の特徴を実感した経験をお伝えしたいと思います。かつて私がデイサービスに勤務していた時のことです。
そのデイサービスは、立派な設備と個性的な職員がいたこともあり、評判の良い事業所でした。例えば、陶芸の窯があり、陶芸を専門に学んだ経験のある職員が中心になって陶芸活動を行ったり、お米や野菜作りなどの、本格的な園芸活動なども行っていました。そこに、山田さん(仮名)という男性の新規利用者がやってきました。山田さんは70歳台と比較的若く、ADLはほぼ自立している方でした。陶芸、園芸、囲碁、将棋、麻雀、体操、ゲーム、パソコンなど、様々な活動にお誘いしていたのですが一切参加されず、「私は結構です」と言って、いつも黙って見ているだけでした。そして、徐々にお休みされることも多くなってきました。そんなある日、送迎のバスの中で、私が何気なく学生時代のことを聞いてみると、なんと山田さんは東大卒で、一流企業に勤めていたエリートサラリーマンだったということが分かりました。働き盛りの頃は海外の責任者としてバリバリに働いていたとのことで、これまでに見せたことのない生き生きとした表情で、実に楽しそうにサラリーマン時代のことをお話ししてくれました。それ以降、山田さんには、無理に活動への参加を促さず、過去の話を沢山話していただくような支援を行うようにしました。その結果、週2回のご利用でしたが、休まれることもなく、毎回来ていただけるようになりました。
特に難しいことをした訳ではありませんが、山田さんのニーズに応じた適切なサービスを提供したことによって、毎回楽しそうに利用していただけることになった例だと思います。私はこの経験を通して、介護の仕事の魅力に改めて気付きました。
この例のように、介護の仕事の魅力は、利用者との関わりの中から生まれてくるものです。この連載を読んでくださっているリーダーの皆さんも、私以上に色々な経験をもっているはずです。リーダーは、自分自身が利用者と関わりながら実感した仕事の魅力を、周囲の職員にも経験をしてもらえるような配慮をすることが重要です。
リーダーの皆さん、一度原点に返って仕事をしてみませんか。これまでの経験の中で介護の仕事の魅力を感じた場面を思い出し、そのような関わりを求めて日々の仕事に取り組むことが、実はリーダーとしてのマネジメントの第一歩かもしれません。リーダーがいきいきと働いている姿を見せることによって、自然と周囲にも仕事の魅力が伝わり、結果的に周囲の介護職員もいきいきと働く素晴らしい職場が出来るでしょう。
すぐに実践可能な具体例として、ここでは、以下の2点を提案します。
① 毎日必ず1回はスタッフを褒める。
誰でも経験したことがあると思いますが、褒められれば気分が良くなります。そうであれば、スタッフに対する「おはようございます」や「お疲れ様でした」といったいつもの挨拶に、「褒める」という要素を付け加えてみてはいかがでしょうか。小さなことでも良いのです。「今日の配膳時の声掛けはとても良かったですよ」とか、「利用者の○○さんと話している時の表情はとても良かったですよ」という内容で良いのです。
介護の仕事の魅力は、利用者との関わりの中で生まれてくるものですから、そこに焦点をあてて、どんな小さなことでも良いので褒めてみましょう。
② エピソードノートを作る。
このノートは、あくまで「個人のメモ」であり、誰かと共有するものではありません。日々利用者と関わる中で、手ごたえを感じたことや、失敗したことなどを、メモ程度に記しておきます。忙しい毎日ゆえに、利用者との関わりの中で生じる様々な出来事(エピソード)も、どんどん忘れていってしまいがちですが、個人的に記録しておき、それを時々読み返すことで、どんな時に仕事の魅力を感じたのか、どんな時に辛いと思ったのかを振り返ることが出来ます。
周囲の職員に対して、仕事の魅力に気付くための具体的なアドバイスをする時に大変役立ちます。
自分の職業に魅力を感じ、誇りをもつことが、輝いてみえるリーダーへの第一歩です。リーダーの皆さん、今こそ介護現場の魅力を語り、魅力的な介護福祉実践現場を創造していきましょう。
COLUMN
介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第2回)、リーダーこそ介護の魅力を語ろう、平成24年5月