COLUMN

介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第3回)、良好な人間関係をつくろう!、平成24年8月

介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 (連載第3回)、良好な人間関係をつくろう!、平成24年8月
 連載3回目の今回は、「良好な人間関係を作ろう!」というテーマでお送りします。介護福祉実践現場で考えられる人間関係と言えば、利用者、利用者の家族、同僚、部下、上司、他職種、ボランティアなど、様々な対象者との人間関係が思い浮かびます。しかも、それぞれは一人ずつ存在する訳ではありませんので、単純なマニュアルのようなものでは対応不可能であることは、容易に察しがつきます。誰にでも得意なことと不得意なことがあり、他者との関わりが得意だと思っている人もいれば、ちょっと苦手と思っている人もいるでしょう。しかし、介護現場のリーダーの場合、「他者との関わりが苦手」では、かなり仕事の幅を狭めてしまいます。そこで今回は、介護現場において、なぜ良好な人間関係の構築が大切なのか、そして、良好な人間関係を作るためにはどんなことに気を付ければ良いのかについて考えていきたいと思います。

 はじめに、職場の人間関係と離職の問題について解説しておきたいと思います。介護職員の離職問題については、多くの研究者や研究機関が調査を行っておりますが、その大半は、質問紙を用いてのアンケート調査です。アンケート調査の場合、大人数を対象にした規模の大きな調査が出来るというメリットがあります。その一方で、アンケートで離職理由を調べる場合、多くは「現在も介護職員として働いている人」を対象に、「直前の職場を辞めた理由は?」といった調査になってしまい、「完全に介護の世界から離れてしまった人」は、対象にしにくいというデメリットがあります。私は、先行研究を分析しながら、「本当に介護の仕事がいやになって離職した人の場合、離職後は働いていないか、介護以外の職業に就いている可能性が高いのではないか」と考えました。そこで、数年前になりますが、入職後3年以内の離職を「早期離職」と定義して、実際に早期離職を経験した介護職員一人ひとりに聞き取り調査を行いました1)。聞き取り調査に協力してくださった15人のうち11人は、調査の時点で、無職か介護以外の職業に転職していた人でした。

マスコミ報道等では、介護職員の離職理由と言えば真っ先に「賃金の低さ」が取り上げられることが多いのですが、当事者たちの話しを丁寧に聴いていくと、実はそうではないという事が分かりました。賃金の問題が全く語られていなかった訳ではありませんが、その何倍も、何十倍も、他の理由について語られていたのです。何も、語られた時間の長短がどうこうと言うつもりはありませんが、介護職員の早期離職には、賃金以外の理由が大きく影響していたということは紛れもない事実です。

 私自身、医療や福祉の現場に勤務していた約10年間に、多くの離職者と関わってきました。また、前述の通り、介護職員の離職については多くの研究報告があります。これらの経験や報告をもとに介護職員の離職理由を概観すると、やりがい、人間関係、賃金といった「仕事上の問題」と、結婚や出産、転居や介護といった「家庭の問題」の2つに分けることが出来ます。さらに、それぞれには、自分自身の価値観や思いからわき起こってきて、ある程度自分自身でコントロール可能な「内的要因」と、周囲からの強い影響によるもので、自分自身ではコントロールしにくい「外的要因」があると思います。これを図にすると、図1のようになります。私が聞き取り調査を行った結果、早期離職の最大の理由として挙げられていたのは、仕事上の問題かつ内的要因だったのです。

例として、2人の語りをご紹介します。

Aさん(21歳女性)特養を1年2か月で退職
 ウチら同期が仲良すぎたからかもしれないんですけど、先輩達との関係がいま一つになってました。気にし過ぎかもしれないんですけど、なんか悪口とかも言われてたみたいでしたし。仕事に対する提案とかもしたんですけど、あまり聞いてもらえませんでしたから。

Bさん(23歳女性)老健を6か月で退職
 休憩室とかで他の職員と一緒になった時は、かなり必死でした。話題探しっていうか、とにかく仲良くならなきゃって思って。かなり気を使って話してましたけど、あまり上手く話せなかったですね。

 この二人の語りからは、「周囲の職員と良好な関係を築かなければならない」と努力していたものの、良好なコミュニケーションを図ることが出来なかった様子が読み取れます。ここで大切なことは、「新人からは働きかけがしにくい」という現実です。これは、実習指導の時にも感じるのですが、立場的に弱い者からの働きかけというのは、周囲が考えている以上に難しいものです。

そして、もう一つ大切なことがあります。読者の皆さん自身も経験があるかもしれませんが、自分が弱い立場の時に、強い立場の人から気さくに話しかけてもらうと、ものすごく嬉しく感じるということです。新入職員の時に、先輩が笑顔で冗談を言ってくれたり、実習初日で緊張している時に、実習指導者から一言褒められたりすると、ものすごく嬉しく感じる、あの感覚です。何気ない一言でも、大きなプラスの影響を与える事になりますので、このことを意識して、周囲との関わりをもっていくことが大切です。

さて、このコーナーは「いきいきリーダー養成講座」です。リーダーの皆様は、介護現場においては、「強い立場」でしょうか、「弱い立場」でしょうか。様々なキャラクターのリーダーがいると思いますが、少なくともコミュニケーションの面からみると、リーダーは「強い立場」として存在していると思います。このことをしっかり自覚することが、リーダーとして良好な人間関係を作る上での第一のポイントです。つまり、「弱い立場からは話しかけにくい」、「強い立場の人から気さくに話しかけられると、とても嬉しく感じる」という2点から考えると、良好な人間関係を構築する上では、「リーダー側からの意図的な発信」がとても重要であり、かつ効果的です。そこで、すぐにでも実践可能で現実的な方法として、前回の「リーダーこそ“魅力”を語ろう!」2)にも書きましたが、「毎日必ず1回はスタッフを褒める」ということを推奨します。前号では「スタッフに介護の仕事の魅力を自覚してもらうため」という目的で紹介した実践方法ですが、これは良好な人間関係作りの観点からも非常に重要で、リーダーに代表されるような「強い立場」の人には欠かせない実践であり、より効果が期待できるものと言えます。

次に、日々の会話で心がけるべきことについて考えてみましょう。よく聞くたとえ話ですが、コップの中に半分だけ水がある場合に、「水はあと半分しかない」と考えるか、「水はあと半分もある」と考えるかという話があります。どちらもコップの中にある水の量は同じですが、捉え方によって、肯定的にも否定的にもなります。これは、良好な人間関係を構築する上では、とても大切なことです。つまり、「目の前で起きている事象を出来るだけ肯定的に捉え、否定的な会話に偏らないように配慮すること」が、良好な人間関係を作る上では重要になってきます。

どのような職場であっても、いい事といやな事は混在しています。私の経験上、何かしらの配慮がなされないと、「今日も職員が足りない」、「上司は全く現場のことを理解してくれない」といった、否定的な会話が増えてきます。こうなると、負の連鎖といった感じで、否定的な会話が否定的な会話をよび、ついには魅力のない職場になってしまいます。

「今日も職員が足りない」という意見が出そうな時には、「少ない人数の中でも、あの場面では利用者さんがとても喜んでいた」と発信したり、「上司が理解してくれない」という意見が出そうな場面では、「この提案を、どうしたら上司が理解してくれるか、一緒に考えましょう」と発信することにより、同じ状況でも、肯定的な会話を生み出すことが可能です。全ての場面でこういう対応をすることは難しいかもしれませんが、普段からリーダーが、肯定的な会話を生み出すように意識しておくことが、良好な人間関係を作る上での第二のポイントです。

今回の内容をまとめると、以下のようになります。
① 職場の人間関係は、職員の職場定着の観点からも非常に重要である。
② 立場の弱い人(新入職員や実習生)から働きかけることは難しい場合が多い。
③ 立場の強い人(リーダー)から話しかけられると、立場の弱い人は嬉しく感じることが多い。
④ リーダーからの意図的な発信は、良好な人間関係を構築する上で効果が大きい。
⑤ 具体的な方法としては、スタッフを褒めること、否定的な会話にならないように配慮することが大切である。

 ここまで読んでくださった方の中には、「こんなに大変な気遣いをしなければならないのならば、リーダーになんかなりたくない」と思う人もいるかもしれません。でも、以前にも書きましたが、何も完璧を求める必要はありません。出来る範囲で、少しずつ気配りをすること、それをコツコツ積み重ねることが最も重要なことです。良好な人間関係は、「何となく出来るもの」ではなくて、リーダーが中心になって、意識的に作り上げていくものだと私は思います。

 すぐに結果を求めるのではなく、日々の小さな配慮の積み重ねの先に、人間関係の良い職場があるのだと思います。小さなことから一歩ずつ、魅力的な介護現場を作っていきましょう。

【引用文献】
1) 古川和稔:介護福祉士の早期離職に関する質的研究,自立支援介護学,Vol3,No2,P.78~85,2010.
2) 古川和稔:リーダーこそ“魅力”を語ろう! 介護現場を楽しく!いきいきリーダー養成講座 第2回,相談援助&運営管理,5月号
Web体験授業 一覧に戻る