先月は、「お笑い芸人の仕事」と「介護の仕事」の違いについて書かせていただきました。「お笑い芸人の仕事」は、強烈に押しまくるパワーが必要な「一方向の仕事」だけれど、一方、「介護の仕事」は、相手の状況や思いを理解する力が必要な「双方向の仕事」であると述べました。そこで、連載3回目の今回は、この「双方向の仕事」のもととなる「双方向の思考」について、もう少し深く考えてみたいと思います。
私は、「双方向の思考」の重要度は職業によって異なるものだと考えています。実は今、宇都宮市のオリオン通りにある某ハンバーガーショップでこの原稿を書いていますが、ここではあまり「双方向の思考」が重要とされていないように思います。
たとえば、皆さんがこのハンバーガーショップの店員で、カウンターの内側にいるとしましょう。レジの前には数名のお客さんが並んでいます。ここであなたが、思いっきり「双方向の思考」を意識して接客したら、どうなるでしょう?一人目のお客さんは、年齢50歳位、やや中年太りのサラリーマン風の男性です。この時、店員のあなたは、“このお客さん、ちょっと太めで血圧が高そうだから、ポテトにかける塩は少なめにしよう”と考え、ポテトの塩を少なめにして提供します。
次のお客さんは、いつも一人で来るので、少し寂しそうに見えます。そこであなたは、カウンター越しに、「今日はいいお天気ですね!この後、どちらへ行かれるのですか?」と話しかけます。
次のお客さんは高校生です。ここでもあなたは「双方向の思考」を意識して、「そろそろ期末テストの時期ですが、勉強は進んでいますか?私は数学が得意なので、分からない問題があったら教えますよ!」と話しかけます。
次のお客さんは体格のよい、体育会系の青年です。“きっとお腹が空いているに違いない”と考えたあなたは、ポテトの量を超大盛りにして提供します。こんなあなたは、とても素敵な店員さんですが、すぐにクビになるでしょう(笑)。
ハンバーガーショップで大切なことは、どのお客さんに対しても、均等均一のサービスを提供することです。例えば、「ポテトのLサイズ」であれば、いつでも、どの店舗でも、同じものを提供しなければなりませんし、商品の提供時間も同じでなければなりません。このように考えると、「芸人の仕事」のように、強烈に押しまくるパワーが必要という訳ではありませんが、同じく「一方向の仕事」と言えると思います。
誤解の無いように言っておきますが、「一方向だから悪い」という意味ではありません。職業によって、求められる能力が違うというだけのことです。翻って、介護の仕事はどうでしょう。利用者さん全員に、均等均一のサービスを提供することが重要でしょうか?もちろん、そうではありませんよね。
利用者さんの意向や置かれた状況によって、それぞれ必要とする介護サービスは違って当然ですし、専門職であればその時々の状況に応じてサービスの内容を変えていかなければなりません。ですから、介護の仕事では、サービスの提供に費やす時間を「1回5分以内」などと一律に設定することはあり得ませんし、やってはならないことです。
私はこの2年間、介護職員の離職問題をテーマに研究し、離職を経験した介護職員一人ひとりにインタビュー調査を行ってきました。その中で、どのような出来事がきっかけで離職を意識したのか、また、その時どのようなことを考えていたのかを聴いてみると、短期間で離職している介護職員の多くが、「やりがいのなさ」や「専門性の欠如」を理由に離職していることが分かりました。マスコミ報道でよく取り上げられる、「賃金の低さ」が理由で離職している訳ではないのです。
介護の仕事は、「双方向の思考」が不可欠であるという点で、難易度の高い仕事と言えるでしょう。でも、だからこそ専門職なのです。日々の忙しさに流され、離職へと気持ちが傾きそうになったら、専門職としての「双方向の思考」を意識してもらえたら、と思います。
COLUMN
介護走り書き(連載3回目)