COLUMN

介護走り書き(連載5回目)

 前号では、介護職員の離職理由について、マスコミ報道で取り上げられることが多い賃金の問題だけでなく、やりがいや人間関係が大きく影響していたというインタビュー調査の結果について触れました。だからと言って、現職の介護職員に向かって「やりがいを見出そう!」とか、「人間関係を良くしよう!」と叫んでみたところで、「なるほど!!やりがいを見出さなきゃ!」とか、「そうだったのか!人間関係を良くしなきゃ!」なんて思ってくれる奇特な人はいないでしょう(笑)。むしろ、「そんなことは分かってるんだよ!!」と反発されるのがオチです。ここで大切なのは、なぜ「やりがい」を見失ってしまうのか、あるいは、どうして人間関係が悪くなってしまうのかを考えてみることだと思います。

私は、この問題には「介護福祉実践の専門性(の欠如)」が大きく影響していると考えています。このように考えているのは、私だけではありません。介護福祉業界のオピニオンリーダーであり、私自身も大学院で指導を受けている、リハビリテーション専門医の竹内孝仁先生は、かなり前からこのことを指摘していました。私の解釈が間違えていなければ、竹内先生は、おむつ利用の高齢者に対して延々とおむつ交換を続けていくような介護を「誰にでも出来る作業=専門性のない介護」とした上で、「この“誰にでも出来る作業”が、夢に燃えて介護福祉の世界に入った若者たちから“仕事のやりがい”を奪い、職場の人間関係を歪ませ、今日の離職の大きな原因になったとみるべきだろう」と述べています1)。読者のなかには、介護福祉実践現場と全く関わりのない方も多いと思いますので、私の経験をもとに、出来るだけ分かりやすく説明させていただきたいと思います。

 現在、多くの特別養護老人ホーム(以下、特養ホーム)では、入居者の方々の要介護度が重度化しています。最も介護度が重い要介護度5、あるいはその1段階手前の要介護度4と認定された方が大半を占めているのが現状です。一般的には、要介護度4~5というと、歩行は困難で、常時おむつを使用し、ほぼ寝たきりかそれに近い生活といった状況が想像されます。このような状態の方々を支援するのが介護職員の仕事であり、その中心的役割を果たすのが、国家資格を有する介護福祉士です。世間一般では、この介護福祉士の仕事は、介護が必要な方々の「お世話をすること」と思われている方が多いと思いますが、本来は、もっともっと奥が深い、専門的な仕事なのです。これまでの連載で、考え方としては「双方向の思考」が重要だということは説明させていただきましたが、日々の介護実践の中にも、多くの専門的支援が求められています。そこで今回は、私が、約半年前に実習生として2週間の介護実習をさせていただいた、ある特養ホームをご紹介したいと思います。

東京都にあるその特養ホームでは、施設長以下、施設職員が一丸となって、入居者の心身状況改善に努めています。そこでの介護は、単に「お世話をする」という次元ではなく、施設長自身の言葉をお借りすれば「リカレント介護」、すなわち、要介護状態の入居者の方々に、再び現役に戻ってもらおうといった理念のもとで、介護福祉実践がなされています。私は、職員の方々と一緒に介護をさせていただきましたが、そこでは、まさに専門的な介護福祉実践が行われていました。驚くべきことに、何年もおむつを使っていた方がトイレで排泄出来るようになり、何年も車椅子で生活していた方が、歩行器を使って歩く練習をしていたのです!!また、高齢者は便秘になりがちなため、多くの特養では日常的に下剤を用いていますが、その施設では、日常生活の支援や食事・水分の摂り方などを工夫して排便を促すことにより、下剤を飲んでいる入居者はいませんでした。まさに、介護福祉士が中心となり、専門的な支援が行われていたのです。ちなみに、その施設の介護職員は、みな自信にあふれ、実に生き生きとした表情で働いていました。
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