COLUMN

介護走り書き(連載7回目)

 新年度ということで、新しい出会いのシーズンですね。私が勤務している宇都宮短期大学には、おかげさまで今年も多くの新入生が入学してくれました。毎年この時期、期待と不安で複雑な表情をしている新入生達をみると、「これからの2年間、必要なことを伝えることが出来るだろうか」、「実りある学生生活を過ごしてもらえるだろうか」という気持ちになります。その答えは、学生である彼ら(彼女ら)にしか分からないことですが、縁あって介護福祉教育に携わっている者としては、謙虚な気持ちを忘れないようにしながらも、これまで自分自身が経験してきたこと、研究してきたことをしっかり伝えて行かなければ、と身が引き締まる思いです。

私は、8年間のお笑い芸人生活の後、日雇い派遣や内装職人見習いを経て、28歳の時に無資格無経験で介護の世界へ飛び込みました。当時は、10年後の自分の姿なんて考える余裕もなく、日々、目の前にいる利用者さんに、楽しく、そして気持ち良く過ごしてもらいたい一心で、無我夢中で働いていました。今でもその傾向にあるのですが、仕事とプライベートの区別が曖昧で、仕事を終えた後もそのまま施設に残って利用者さんとおしゃべりをしたり、将棋を指したりしていました。

こうした生活を送る中で、何人もの思い出深い利用者さんと出逢いました。その中の一人に、中島さん(仮名)というおじいちゃんがいます。中島さんはアマチュア将棋の有段者で、かつてはプロの棋士を目指していたというだけあって、相当な腕前の持ち主でした。飛車角落ちにしてもらっても、私では全く歯が立たず、悔しかった私は、「もう一局、もう一局」と言っては夜遅くまで相手をしてもらいました。すると中島さんは、「よし!もういっちょやるか!」と、缶コーヒーを飲みながら、何局も付き合ってくれたものです。中島さんにしてみれば、私が相手では、弱過ぎてつまらなかったでしょうに…。そんなある日のことです。一旦帰宅したはずの女性職員が戻ってきて、「これ、夜食ね!」と2人分のカレーライスを差し入れてくれました。中島さんと私は、差し入れのカレーライスをむしゃむしゃ食べながら、さらに将棋を指し続け、夜はどんどん更けていったのでした(笑)。

このような私の行動は、見方によっては、「勤務を終えた職員が居残って、利用者の日課を乱している行為」とも取られかねません。それでも私は、「利用者としっかり向き合う」という点で言えば、大切なことだったのではないかと今でも思っています。

ここで私が言いたいことは、「プライベートの時間も使いなさい」などということではありません。偉そうに聞こえるかもしれませんが、介護の基本というか、出発点は、「利用者を“人”としてみること」だということを、もう一度考えてみたいのです。「そんなこと、当たり前だろう!利用者を人としてみていない介護職員なんかいるのか!」と思われる方も多いかもしれませんが、残念ながら、そのように感じられる場面があるのも事実だからです。私はこれまで、複数の高齢者福祉施設に約8年間勤務してきました。私が勤務していた当時もそうでしたが、福祉実践に関わっている介護職員はよく、「“業務”が忙しくて、利用者と向き合う時間がない」と言います。しかし、この“業務”という概念がクセモノに思えます。介護職員にとっての“業務”とは、何から何までを指すのでしょうか? 食事の配膳? 入浴の介助? 掃除やシーツ交換? そして、“利用者と向き合う時間”は、果たして“業務ではない”のでしょうか? …おっと、いよいよ本題というところで字数制限となってしまったようです(笑)。この続きは、次号以降のお楽しみに(笑)!
Web体験授業 一覧に戻る